vol.7  エルメスのタニシBAG


 会社帰りの電車でのこと。
この下町の駅には珍しくパッとした女性が降りた。
髪をきちんと束ね、緊張感あるチャコールグレイのスーツを着た、キャリアウーマン然の彼女は、ヒールをコツコツと階段を昇っていく。
 ふとみると、スーパーのビニール袋から長ネギがにょきっと飛び出している。
もはや怖いものなしのオバサンではなく、タイトなスカートとふくらはぎを強調するハイヒールの奇麗なお姉さんだから、余計に目がいってしまう。
 たぶん、本人も恥ずかしいのか、ヴィトンのバックでそっと隠すようにしているのが、またいい。
今夜誰かと食べるのだろう。


 こういうニーズからか、紀伊国屋(書店ではなく青山の高級スーパー)のトートバッグが売れている。
エコバッグともいい、環境保護、ポリ袋のリサイクルのためのナイロン製の買物手提げ袋だが、ネギとか、生活感の象徴のようなもののカモフラージュに好適でさらにKINOKUNIYAというブランド記号が女性受けいいのだろう。(モノが同じでも地元のなんとかマートとかでは駄目。)

 また、大きさは若干違うが、エルメスのトートバックも去年から流行っている。
これは5万円くらいするらしいが、綿製でブランドのロゴも入らず、野暮な男目には子供のお稽古袋にしか見えない。そもそもはハイソな貴婦人やお嬢様が犬の散歩用とのこと。それなりの精神的満足とOL道具がなんでもぶちこめて便利なのだろう。


 ある金曜日、新橋のエサ屋で生きたザリガニを50匹買いこんで、発泡スチロールに入れてもらい、満員電車でもって帰ってきたことがある。
 吊り棚に載せたが、カサコソ、ザワザワやっている。その怪しい箱を怪訝そうにみる人もいる。スーツ姿の私は寝たふりをしてたが、妙に落ち着かない。もし、フタが開いて、この車内でザリガニを待ち散らしたらどんな騒ぎになるやら・・・。女性の悲鳴であふれかえり、変質者として、下手すれば鉄道警察ものだろう、などとひやひやものであった。


 とかく、釣りの生エサ関係は、長ネギもそうだが、自然むき出しでは、都市のファシリティーやファッションにはどうにも合わない。

 電車だけではない。マンションだ。困るのは。
タニシとりのために人通りのあるドブや田をさらうのは昼でも夜でも精神的にはかなりつらいが、エレベーターで大量の淡水の貝類をもっている状況というのはつらい。
タニシを担ぐほど網にとってきたり、カラス貝をビニール袋に買ってきたり、そういう時にかぎって、近階の若奥さんと会ってしまったりする。
 ついコソコソとしてしまうし、エレベーターでぶちまけたらどうしようと。
別に悪いことはしてないし、迷惑はかけていない。趣味なんだから、別に堂々としていればいいのだが。


例えば、銀座を歩けるようなタニシ袋などはないか?など妄連想をしたり。この釣り師はつくづく小心者であり、自意識と煩悩だらけなのだ。これは誰かにビシッと説教してもらいたいものだ。



誰もあんたのことなんか気にしてないよと。

エルメス銀座店、6/28オープン。土地代時価90億円の一等地。
タニシ入れは、ないだろうな・・・・

2001.6.28


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