国内でウワサの淡水巨魚釣旅行記
新潟に「浪太郎」と呼ばれる淡水巨大魚伝説あり。日本では大鳥居池のタキタロウなどと並ぶ、淡水巨魚系UMA(未確認生物)のひとつたが、なによりコイ科であることが気にかかっていた。
一昨年に釣友がドライブで訪れており池の地理的状況は聞いていたが、目撃談の体長3〜4メートルという数字に、まだ見ぬヌシに会いたい願望が、ひそかに、静かにムクムクと増殖していた。2004年、アオウオのシーズン(しかし絶不調)が一段落した5月末、土日一泊の竿出しを強行。
浪太郎の由来である「高浪の池」は、スキーで有名な白馬に程近い、標高540メートル強にある周囲2qの山上池。東京から関越〜上信越道。北東へクルマで360kmをひた走る。現地は北陸道・糸魚川インターから約30分、富山県境に程近い。
長野へ続く国道から池へ向かう路傍の野立看板には、唐突にも「キャンプ、巨大魚」。他にも「日本のスイス、幻の巨大魚」等、そそるワードが連発し、胸がはずむ。
姫川ぞいの国道を入る。 |
いきなり。でも、気に入った。 |
奇岩そびえる山を背景にした池は、近づいてみると想像以上に静かで、神秘的なムード。もっと俗っぽい場所をイメージしていただけに・・。
湖畔のボート乗り場には原寸大?「浪太郎」のモニュメントが置かれ、自然とのユニークな対比を醸し出す。
文字通りの幻の魚狙いとはいえ、荒唐無稽なバラエティ番組の企画ではない。私なりの釣戦略は立てて臨んだ。
事前情報を総合すると、魚種は十中八九、コイと思われる。
が、放流されたアオウオやソウギョの可能性もある。しかし、いくらなんでも4メートルというのは?・・・だが、アオウオならば、2メートルは現実味もある。
@季節的にはコイ科魚の産卵期前。Aボートもある観光地のため、夕方〜朝にかけての静かな時間帯に勝負。Bポイントは岸辺の浅場狙い。
まあ、鯉釣りセオリーどおりのベタなもの。戦術面で巨魚に対応することに。
まずエサ。私の発想で、アオウオ+巨鯉を両天秤で狙えるのはやはり、タニシだろうとなる。小ゴイはいらないし、生エサのほうが特に野生種には向いていると判断。ただし、生態系への影響も心配なので、コマセは必要最小限とした。サブでドバミミズ。
ハード面は、考えられる武装は尽くした。タックル・仕掛けはアオウオ用をベース。止水なら2メートルの魚は上げられるはず。夜釣り対応のための無線センサー使用。
さらに普段あまり使わない小道具も動員。
キャスティング用の腕時計型ハンディ魚探で底を探る。オモリを引けば底の様子はだいたいはわかるが、初めての場ではデジタルで表示させるのも楽しいものだ。最深部は13mとのことで、対岸は確かに深いが、足場が悪く竿が出せない。ボート小屋のあるごく浅場を狙うことにする。ゆるやかなカケアガリで20メートルくらいまで水深3mほど。
さらに赤外線放射温度計で表水温を測定すると、18℃前後と出た。カルデラ地の湧き水で、冬でも結氷せず年間温度は安定しているようだ。
豪雪地域だけに、初夏の新緑の息吹は鮮烈だ。原生林に近い緑を写す鏡のような神秘的な水面。古木が突き出ていたり、ヌシが出てきそうな山上池のムードは満点。
岸辺の水底には藻が茂り、透明度も高く、鯉とウグイが岸辺に見える。耳には初夏の野鳥の声。五感が研ぎ澄まされる中、竿出しを完了、貸切状態のキャンプ場のテントで夜を明かす。
管理人も四時には不在となり、息苦しいほどの静寂と闇につつまれる。目には星、耳にはフクロウの声。
ここにはロッジのほか、観光案内所兼食堂・キャンプ場受付兼売店がある。この日は女性スタッフが数名で勤務している。話を伺った元・オネエサンはボートより大きな魚が水面を行くのを過去数回、目撃しているという。ただ、もう10数年も前のことだという。
観光案内所の壁には池を泳ぐ巨大魚写真も2枚ある。
しかし、写真判定は微妙だ。うーむ・・・・。証拠写真といえるのかはなんともいえない。
そう、断言できないから、幻の巨大魚「浪太郎」たるゆえんなのだ。
*撮影しましたが、角度と映りこみの関係で上手く撮れていません。気になる方は実際に訪れて見てみてください。
写真その1 真ん中の影のようなもの。 左に小さいのが普通の色ゴイ。 |
写真その2 *写真自体は写せませんでした。 背びれ、口の形から、魚種はコイと断言します。 しかし、これは大きさの対比となるものが・・・ |
一泊の釣りの結果は、アタリなし。見事にアタリなし。おかげで良く眠れた。
まあ、ロマンの釣り、一回で結果が出るはずない。いや、出てしまったら困る。いろいろな意味で。
そっとしておけ池のヌシと、安堵にも似たスッキリした気分で納竿。
魚影の多いところではない。それは釣り人がいないところを見てもわかる。確認できたのはウグイと鯉、しかし決してエサが豊富とは思えない。
ここは新潟だ。もし、ここが巨ゴイ釣場のメッカということならば、休日ともなれば竿の放列間違いないだろうし・・。
帰路、ヒスイ峡を回っていく。糸魚川市の博物館に立ち寄り、この地の歴史を知る。
糸魚川、フォッサマグナ、ヒスイ。高浪の池、浪太郎をとりまく、ロマンあふれる土地柄を痛感。
この地なら、
やはり浪太郎はいてもおかしくない。そんな気分が強くなった。
やはりいるのだろう。
いてほしい。いや、いるに違いない。
このような幻の大魚話は日本各地に残っている。他にもあれば訪れてみたい。
決して未知の魚の正体を明らかにするのが目的ではない。大体、それは社会的にもなんのメリットも生み出さない。
百聞は一見に如かず。大事なのはまず現地に行って竿を出してロマンを体験することだと思う。
浪太郎。夢を見つつ、自然に存分に癒されたキャンプ、巨大魚の旅だった。
(2004年6月)