幻の超巨鯉、パーカーホ(Pla Caho)


第二回タイ釣行記 完結篇

2005年9月23日〜26日、ダイワ精工提供の釣り番組「ザ・フィッシング」の撮影で三年ぶり二回目のタイ釣行に行ってきました。今度はパーカーホを腕に抱き、しっかりとカメラに収めました。

*このページだけではおそらく理解が困難です。前回の釣行記と合せてお読みください。
なお、今回はテレビ撮影のため、写真は部分的なものだけしかありません。


◆三年ぶりのバンコク、ブンサムラン

三連休を利用して、二度目のタイへ。ダイワ「ザ・フィッシング」の海外ロケだ。

もちろん狙いはアオウオと並ぶ世界最大級の鯉、パーカーホ。三年前とほぼ同じ日程。
前回、メートル級を釣り上げながら、写真に撮れなかったのが大変な心残りであった
あの湖に、今回はテレビカメラを連れて。


ブンサムランで出迎えてくれたのは、ジャン・フランソワ・エリアス。
私がこの魚に魅了されるきっかけとなった張本人と、三年ぶりの再会となった。
現地人ガイドは彼のチームのトップガイドのKIK。バンガローの位置も、前回と同じだ。

39歳の私と、49歳のフランソワ。
三年前に比べると少し老けた感じ。お互いに。
フランソワのチームのトップガイドKikと、
新たにヒゲの男、Toomも加わる。
フランソワの奥さんのLekはペットの猿を連れて。

入り口から見て、湖の右奥になる。
パーカーホには絶対の実績を誇る橋桁脇のポイントは
水深も深く、フランソワのチームの御用達。

こんな感じで日が暮れる。
9月下旬の日没は18時と東京よりやや早い。

◆タックルは鯉用と中層魚用で2本を持参。


今回は日本から、2本のダイワの竿を持参。
両軸リール+鯉竿はパーカーホ用のブッコミ用。スピニング+GTロッドはピラルクとナマズ狙いのウキ釣り用。

屋根の張り出したバンガローの上では、できるだけ短い竿が有利。
鯉竿は少しでも短くと、山上湖用の新製品
「巨鯉烈火MH455B」とした。
リールは使い慣れた
「巨鯉40W」に、ラインは青魚に使用している「アストロン石鯛18号」

もう一本はソルトウォーター用のソルティガシリーズの組み合わせ。今回は150kgオーバーのピラルクを視野に入れ、ダイワのラインナップの中では、最強スペックを用意。
7.6フィートの遠征用GTロッド
「SG MURAMURA76」にリールは「ソルティガZ6500」、ラインは90ポンドの強力PEライン。
*さらに現地にて150ポンドのナイロンリーダーをビミニツイストで装着。

前回の経験から、ピトンを持参。山田製作所のピトンと、板への固定は鯉キチカンパニーオリジナルの万力。
愛知の福安氏に相談の上、ボイリーも用意した。

リールをフリーで板の間にベタリと竿を置くだけではフッキングに不安。竿を固定するジャパニーズスタイルは、ここでは目を引いた。 山田ピトン特注品を鯉キチカンパニー特製の万力(10cm)でガッチリと板に固定。

ユーロカープ福安氏の好意により、鯉の世界記録保持者のエリック・アンガー氏のボイリーを分けていただいた。
ポップアップと通常のボイリーの二つをセットアップした状態で。

◆今回の戦略。

今回の組み立ては、フランソワと相談の上、鯉竿は終日パーカーホ狙いでブッコミ、GTロッドは午前中ピラルク狙い、午後1時〜3時までメコン大ナマズ狙い、また夕方にピラルク狙い、という作戦で望む。

前回はコクレンも狙ったが、この湖ではパーカーホ以上に希少で、また、サイズ的にもメートルを下回るため、今回は効率的上、見送ることにした。

ピラルク狙いは、ライブベイト。現地にたくさん生息する
テラピアをエサにした泳がせ釣り
大型の環付き針を背がけにして、ナマズにも使う遊動ウキをつけて
ウキ下1.5メートル前後で泳がせる。

投網でピラルクのエサ、
テラピア捕り。

こんな密度で捕れる。
テラピアはタフで、一日十匹程度で事足りる。
外道はチャオプラヤキャットフィッシュ。

◆一日目、喧騒の湖、メコンオオナマズでぐったり。

朝8時から釣り開始。天候は朝のうち薄曇だが、雲が切れると強い日差しが肌を射る。
今回の二日間は土日とあって、若者のグループや家族連れが数多く繰り出し、湖は大盛況。前回は平日だったとはいえ、純粋なレジャーとしての釣り、しかも決して安価ではない釣り場にこれだけ人がいるとは。年間10%を超えるバンコクの経済成長を肌で感じる。
 ピラルク、パーカーホともに狙えるブンサムランきっての好ポイントといえども、橋を子供が駆け回る厳しい状況。
案の定、ライブベイトにはまったく反応がない。本命パーカーホも反応なし。

 メコンオオナマズはタイの東側のラオス、ベトナム国境を流れるメコン川に固有の世界最大級のナマズ。
ブンサムランの象徴ともいえるこの魚、この湖には約3万匹が放たれている。湖の中心部に群れていて、水面で始終ライズしている。対象魚としてもっとも人気であり、ここを訪れるほとんどの釣人はこの魚を狙う。
 食性は
ベジタリアン。メコン川では川底の藻を食べているというおとなしい魚。巨大な口には歯もない。

釣り方は、中層のウキ釣りとなる。エサはほぐした食パンにココナッツミルクと魚粉を混ぜ、ラセンを芯に、テニスボール大のダンゴに握り固める。さらに4〜5cmのパンの耳を数枚指でつぶして重ね、食わせ針に装餌。湖の中心に向かってボーンと3〜40メートル投げる。オモリはつけず、ダンゴの重量だけだ。フルキャスト時は注意しないと、空中分解する。
群れてライズしている距離まで投げ入れるとほとんど入れ食い状態で、相変わらず飽きるほど釣れる。

メコンオオナマズの外道としては、やや小型のストライプドキャットフィッシュ。食性・姿はメコンオオナマズによく似ていて、わずかに尻尾の形状、体色が違う程度。アベレージは10kg程度。最大でも25キロくらいという。タナや時間帯によってこの魚が半分くらい混じる場合もある。

メコンの引きはのったりとひたすら重い。日本でいえば草魚クラス、15〜20キロ級とのやりとりだから渾身の力をこめて引き合えばそれなりに迫力は満点だ。
最初は独特の引き味に翻弄されるが、慣れてくると一匹あたりで五分間くらいのやりとりだ。が、三十度をはるかに超える気温中では、
五匹も釣れば次第に重労働に近い苦行に変わる。ハードなエクササイズだ。慣れてくると一匹あたりで五分間くらいのやりとりだ。
アベレージは110〜120センチ、なかなかサイズが伸びない。

テラピアのライブベイトに食ってきたパクー(Pacu)。
ピラニアに近い種類だが、歯はピラニアほど鋭くはない。

この湖の定番、メコンジャイアントキャットフィッシュ。
アベレージの120cm弱、15gクラス。
やがて、腕も腰もパンパンになり、本命との格闘を考え、10匹程度にとどめておくこととし、二時間で終了。

鯉竿には午後一回アタリがあったがフッキングしなかった。

◆Boillies doesn't work for Giant Carp


ブンサムランのパーカーホ狙いは、ラセンに米糠メインのダンゴ、食わせは発砲玉をつけた空バリ仕掛け(針が水中に浮くよう発砲の個数を調整し、比重ゼロのサスペンド状態とする)。

持参したボイリーを試したいとフランソワに相談してみるが、
しかし、彼がいうには
「Boillies doesn't work for Giant Carp」
つまり、ヨーロッパやアメリカで使用されているボイリーはコモンカープ(普通の鯉)には通用しても、タイのパーカーホには通用しないという。
この湖ではヨーロッパの鯉釣り師か数多く訪れている。過去に様々なボイリーで攻めたが、みな玉砕、
彼のガイドした客で、ボイリーで結果を出した者は皆無だという。
よくよく尋ねてみると、食わないというより、むしろナマズがあたってしまい、釣りにならないというのが実情のようだ。


コマセはそのまま併用してエリック・アンガー氏のボイリーを装着して試すが、やはりパーカーホの反応なく終わった。

翌日の日曜日の夕方に勝負をかけることとし、残りのパン、米糠のエサをすべてポイントにコマセして日没にて終了。

◆二日目、依然としてナマズ、ナマズ。しかし高活性の兆し。

朝は市内撮影のため、10時から実釣開始。
土曜日夜は夜通し釣りをした釣人も多いようだ。
相変わらず釣り客は多く、対岸の釣り桟橋はほぼ満員だが、こちらのバンガローエリアでは騒ぐ子供は少ない。

朝のうちピラルク狙いのライブベイトには、肉食性のチャオプラヤキャットフィッシュが二匹釣れる。
なんの反応のなかった昨日とは活性が違うようだ。
一度だけ巨大なピラルクのモジリが見え、仕掛けをその地点に投入するが、反応はなく昼食タイムへ。
午後は予定通り、メコンオオナマズに切り替えて、オンパレードを一時間半ほど続ける。
145cmの良型が出たところでギブアップ。
肉食性のナマズ、
チャオプラヤキャットフィッシュ
これは120cmほどで良型。

ようやく来た良型。
この145cmでメコンオオナマズ狙い
は打ち止めとした

重さは25〜30kg弱。
腕はボロボロ、腰はガクガク。

◆そして、状況は変わった。スコールの中の格闘。

パーカーホのポイントは湖奥を横断する橋桁の際。橋といっても丸太の橋脚があって、水面数十センチの高さに幅1mほどの板を渡し、木枠の手すりがある長さ100m程度のものだが、鯉の好む立派な障害物になっており、パーカーホには最も実績のある深場でもある。ちょっと走られれば杭に駆け込まれるリスキーなポイントだ。
前回釣行時も確かにここでアタリがあった。その杭の際をしつこく攻める。
前日からの餌ウチでコマセが利いたのか、午後から数回の鯉のモジリを確認。
ピラルクをあきらめ、2本の竿を鯉狙いにして集中する。残された時間はあと三時間を切った。

午後三時半を過ぎたころ、GTロッドに激しいアタリ。引き具合からみて小型のパーカーホと想われるが、
強引に寄せるとあっけなく寄ってくる。しかし、手前でトリッキーな動きをされ、
必死にリールを巻くが、グッと引き込まれ、魚を見ぬまま足元でバラシ・・・。
慣れないスピニングでドラッグ調整がいまひとつだったのか、はたまた口切れか。

パーカーホと想われる魚のバラシで呆然とするのもつかの間、
その直後、鯉竿「烈火」の鯉仕掛けにきたのは、その動きから大型のナマズとわかる。が、これまでとはまったく次元が違う、超大型のアオウオをかけたような底を這う重量感が伝わり、両軸リール「巨鯉40W」から糸が引き出される。障害物の橋の方向に向かうが、走りを止められない。橋桁をくぐって反対側へ走られる。糸は杭に擦れて、石鯛用の18号ラインが軋む。

橋桁のほうに竿をもって移動。やがて一時的に弱いスコールが降り出す。
魚は完全に橋を通過。糸は杭に食い込んで動かない。ここが日本ならとうにあきらめる事態だが、が、ここはタイだ。
なんと、魚のついた竿をリールごと水中に沈め、橋の反対側に竿を通す、あるいは糸を切って結びなおすという、ガイドチームのアクロバチックなテクニックに救われる。掛けたのは鯉竿、上げたのはGTロッドという笑い話のような状況だが、頼んだわけでもない。なんとかしてランディングさせようというガイド達のプロフェッショナルな気持ちが伝わる。
雨の橋の上で三十分に及ぶ格闘劇を経て、150オーバーをネットイン。すでにスコールは上がっていた。


この湖で、裸で水中に入って撮影会を行うのは、最大級クラスを釣り上げたアングラーであり、ある意味その日の湖のスターとなることを意味する、名誉なことだ。

一応、パンツもシャツも替えをもってきている。パーカーホが釣れる保証はない。
今回の旅で、これだけのものを釣ればもう十分と、短パンのまま水中にて記念撮影。

ギャラリーも集まるが、もう体力は限界に近く、腕は完全に上がらない。

◆その直後、ついにクライマックスへ


時間はすでに午後4時半。今回の釣行も日没まで。あと一時間半しかない。
水中のオオナマズ撮影とスコールで濡れた服とパンツを着替えて、ラストチャンスにかけた仕掛けを再投入。

一服するのもつかの間、またしてもGTロッドが鯉のアタリをとらえた。
今回はソルティガが幸運の竿だ。竿をもつとフッキングして激しく糸を引き出す。

そいつは単調なナマズとは違い、重くスピードのあるキューン、キューンという金属的な引きを繰り返す。
障害物である橋げた、足元の杭に向かって走る。口切れせぬよう、
糸をたるませないよう慎重に、慎重に寄せる。
やがて青魚のようなサイズの魚が、黒いヒレとウロコをギラリと見せて、パーカーホと認識できた。メーターはかなり越えた良型だ。
「バンコクで、今まさに幻の巨鯉、パーカーホと引き合っている、夢じゃなくて現実だ」そう思うと頭がクラクラしてきた。
絶対にバラしてなるものかと気合が入る。

ガイド達も騒然となる。
フランソワも横にきてリール、リール、アップ、ダウンと真剣に指示を出す。
反転され、糸を引き出される、寄せてくるの繰り返しを数回。
やがてネットイン。


興奮で細かくは覚えていないがその瞬間、歓喜の叫びを叫んでいたと思う。
ついにやった。捕った!



網から大きくはみ出すパーカーホ。

◆悲願の写真撮影に成功、135cm40kg


さっ陸揚げしてネットのままパーカーホの重量をフランソワのスケールで検量。ネットの重さを二キロ引いて40kg。
陸揚げしてメジャーを当てたいのだが、フランソワが「この魚は貴重でとても弱い、すぐ水に入れないとダメ」だという。
そこで写真撮影のためネットのまま、背後の浅場に運ぶ。針はかけたまま。

ほんの三十分前に入って着替えたばかりなのに、なんと二回目の「お水入り」だ。まさかこんなことになるとは。もうパンツもシャツも替えが無いが、もう関係ないだろう。

ここでふと前回の悪夢を思い出すが、これが魚体を大事に扱おうというフランソワの流儀だ。
前回はKIKと水に入ったが、今回はフランソワ自ら水中に入る。頭のほうを彼が持つと申し出る。
裸のスキンヘッドと体を密着させながら、胸ヒレをしっかり両手でつかむ。


フランソワとメジャーでざっくり計ると全長135cm。
(魚体にあてがっていて正確ではありませんので悪しからず。)
胴回りは1mジャスト。青魚でいう160オーバー並みだ。

儀式は無事終わった。

生涯2匹目のパーカーホを抱いて、あのスタイルの写真を、撮った。


東京から4500km、南国の地まで、この瞬間のために来たのだ。
目線はテレビカメラ、目の前にはスタッフや大勢のギャラリー。魚を抱え、タニシが積もっている沼底の感触に足をふんばりながら、初めてのアオウオのことや、江戸川や利根川の風景やら、いろいろなことが本当に走馬灯のように脳裏をよぎって錯綜状態。この感動をとても言語化できず、たぶん支離滅裂なことをしゃべっているのではと思う。
顔は涙と水でグチャグチャだが、魚は間違いなく綺麗だ・・・。


デカイ口。拳二つ分。

*クリックしてください。
ほぼ原寸大です。



*この後、リリースしたわけですが、ふだんアオウオをリリースするときのように、魚が泳ぎだすまで口に手で水流を入れる動作を続けました。 たぶん、数分間やっていました。それを見ていた現地の人が
、「恋人と別れられない男みたい」といっていたと後で通訳の方から聞きました



唯一の心残りはこのパーカーホの左目が不自由だったこと。
これほど抱いていても、無我夢中で気づかなかったが、
わかったのは、放流後、写真を見てのこと。
気づいていれば、写真撮影時に右サイドを向ければ良かったが後の祭り。

これが唯一の右サイドの写真。

◆ついに、円は閉じた。

夕暮れ近い異国の地の沼につかりながら、無性に江戸川の岸辺が恋しくなった。

この鯉は十分に巨魚であり、満足できるサイズだ。
首都バンコク市内でこういうものが釣れる事実は素晴らしい。
しかし、考えてみれば東京で、さらに大きなアオウオがネイティブで釣れることはもっとすごくはないだろうか。
いつもながら遠征の旅に出てみると、その素晴らしさをより実感する。
私にはアオウオという軸足がある。戻るところがあるからこそ旅に出られるのだと思う・・。

このフナのお化けのような魚を知ったのは三年前の夏。
アオウオと並ぶ世界最大級の鯉。
そして恋焦がれ、巡りめぐって、因縁の魚を抱いた。

円は閉じた。




                                                    (2005年9月28日)



*今回の釣行の全ては「ザ・フィッシング」のテレビカメラで撮影しています。
→ザ・フィッシング公式ページ


    ◆ 出演歴     アオウオ篇(2003.11.19 OA)  チョウザメ篇(2004.5.22 OA)


【下記のサイトにタイの釣り情報がつまっています。*問い合わせは英語にて】

Jean-Francois Helias
IGFA Representative - Thailand
Fishing Adventures Thailand
78 IGFA World Records
www.anglingthailand.com

Email : fishasia@ksc.th.com 

【ブンサムラン湖】

Bungsamran Fishing Park 
住所:Soi Suwanprasert Sukhapiban 1 Rd, Bangkapi, Bangkok 10240
Tel : 0-2734-9270
公式サイト(英語)  地図 魚種 料金・釣場図(各施設の写真がクリックで見られます→料金一覧表)


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