ほんの5年前くらいまでは、アオウオが釣れても、仲間に連絡をとるのは大変だった。
ひとりでは陸まで揚げられない大物などは、ロープでつないで釣り場を離れた公衆電話まで行かなくてはならなかったが、今では、ケータイのボタンひとつでだれかがすぐ来てくれる。
携帯がなければ取りこめなかったアオウオもいる。
3年ほど前のある日の昼下がり、N崎さんとハゼ釣りをしていると、S本氏からの電話。アオがかかって、やりとりしているが、タモ網を忘れたという。こちらも網などないので、近辺の鯉釣りをしているY山さんから仲間から網を借り、ふたりでかけつけて無事157cmを取りこめた。
用件の電話だけではない。
やってる?とか、どこどこで何センチがあがったらしいとか、釣れないぼやきとかの、いいオジサンたちの非用件の通信が川を飛びまわる。
平日に利根川に釣行したI田さんは、青魚をかけると同時に釣り仲間にケータイをかけ、リールの逆転するクリックの音をきかせて中継したという。相手のO野さんは仕事中、さぞかし集中できなくて困ったろうとお察しするが、釣り仲間とはこんなものでほほえましい話だ。
新たに知り合った釣友のメモリーダイヤルも増え、バーチャルの釣りネットワークができていく。私も職業柄、通信とは縁が切れないが、移動体通信だけは安泰だ。
話だけではなく、ほとんどのケータイではメールもできるようになった。平日釣りしている仲間から、会議中にも釣果がメールで送られてくる。会社のパソコンにきたメールも転送して、釣り場で見ることができるし、人によってはモバイルPCでインターネットまでしている。
今月からドコモが次世代携帯電話サービス実験を始めた。わかりやすくいえばテレビ電話の世界だ。釣った魚の映像が送れる。今日の川のコンディションまで送れる。
こういうものが当たり前になれば、たとえば、釣り大会などのありかたも大きく変わるだろう。また、映像で確認できれば、毎週泊り込みで釣りに行くというダンナを怪しく思っている家人も安心するだろう。
しかし、つながるということが、必ずしも幸せとは限らない。
昨夏の梅雨明け、西伊豆で4日間石鯛を狙ったがボウズで、しかも、気温35度近い中、車のエアコンが故障し、ぐったりと朦朧としながら渋滞の東名高速を東京に向かう。途中、おなじような日程で離島に遠征の石鯛釣りに行っているI島氏から電話がはいった。
途方もない爆釣の報である。
どっと疲れが100倍となった。その電話は1000キロ南の小笠原母島の磯の上からだった。
2001.6.3