vol.3 タニシ採りがタニシになる?


 今、とにかく小泉であり自民党であるように、とにかくタニシである。
アオウオ師限定だったこの生餌が昨年あたりからは鯉でもブレイク。その効果は抜群。食わせにもマキエともなり、餌持ちもよく、しかもタダ。デフレ日本の象徴のような餌だ。マキエとして数十キロ単位で播く人もいる。ここ数年で関東近辺の田や水路から利根川や江戸川に移植?された量は何トンにおよぶか。

 が、いかんせん、都市部では入手が厳しい。
小生も田んぼのある埼玉の郊外まで1時間以上かけて取りに行く。その手間たるや、相応の覚悟がいる。その多くはドブのようなところ。週末近い夜には有名ポイントはラッシュとなり、ドブをさらうオジサン達のヘッドランプが蛍のようにうごめく。犬も吠える怪しく異様な光景だ。

 だが、タニシも無限に湧くわけではないから、やはり場荒れする。
タニシポイントは減少の一途だ。霞ケ浦や北浦のちかくの水路ではもはや消滅といわれる。最近では釣りのポイントよりもタニシのポイント情報が重宝される。数年後には関東近辺では絶滅をささやく人もいる。せめて小さなものは残すようにしたいものだ。

 タニシ採りは実に楽しい。つい、度が過ぎてしまう。ここに落とし穴がある。
田んぼや水路で泥だらけになって網をすくうのは少年の気分で楽しい。採集本能と狩猟本能という男の原始DNAに火が点れば、そこに理性はない。したがって歯止めがききにくい。O君は毎週金曜日からアオウオ釣りをするため、木曜日の夜にタニシとりをする。タニシ採りは中腰の姿勢がほとんどで、20代の彼の腰を壊してしまった。

 生餌、ひいてもタニシは泥臭さそのもの、女性受けは悪い。
キムタクや反町のようなスマートな世界とは対極。死ねば異臭を発するし、ま、ドバミミズやゴカイほどではないが、普通の女性は怖がる。気持ち悪い。(実際、不潔であり、広東住血線虫という怖い寄生虫の中間宿主としても知られている。石鹸で良く手を洗おう。)
 
 小生は冷蔵庫の野菜室のタッパーに密かに保管して明け方や夜にごそごそ出し入れしていたが、ベランダに専用冷蔵庫設置を余儀なくされた。A君は奥さんに内証で物置に冷蔵庫を設置し、配線まで隠していたが発見されてしまい、後は大変だったらしい。ま、これはタニシに限らないことであり、カラス貝で離婚に至った家庭も知っている。

 似ているようで対極にあるのは海のイシダイ釣り。
これまためったに釣れぬ魔性の釣りであるが、魚自体はあまり美味くない。しかし、その餌は高い。サザエ、アワビ、伊勢海老、ウニと磯の高級どころだ。こちらは入手には手間をかけずに金で片付く。ここだけ聞けばカッコイイ。だが、女房と寿司に行ってもタコ、イカ、ヒカリ物しか食べさせない男が、一日に何キロも餌盗りと呼ぶ外道たちに大盤ぶるまい。いるのかいないのかわかぬ本命へのかすかな妄想だけを頼りに。しかも、大金をはたいて。

男のロマン。されど、どちらも、度を越すと、家でタニシ扱いされるかも。

2001.6.6